読書感想:鉄の骨(池井戸潤)

池井戸潤さんといえば、「半沢直樹シリーズ」や「下町ロケット」が有名です。「半沢直樹シリーズ」は銀行マンの活躍を描いた小説であり、事務系のサラリーマンにとっては内容が身近なものになっています。また、「下町ロケット」は中小メーカーの社長の奮闘を描いた小説であり、技術系のサラリーマンにとっては内容が身近なものになっています。

「鉄の骨」は建設業界と公共工事を題材にしています。談合をテーマとしており、裾野が広い建設業界と公務員の方には内容が身近でものであると思います。吉川英治文学賞新人賞を受賞した作品でもあり、おすすめしやすい一冊です。

建築学科を卒業し現場で4年間仕事をしていた富島平太は、ある日突然、業務課への異動を命ぜられます。しかし、業務課は法律で禁じられている『談合』を行う部署だったのです。様々な出来事を苦労しながらこなし、富島平太は成長していきます。

公共工事には、多くの会社、団体、組織、そして人が絡み合います。また、そこには、色々な制度、しくみ、技術、思惑があります。ですから、公共工事に関する仕事をしたことがある人も、全てを理解するということはなかなかできません。また、制度やしくみの存在は理解していたとしても、それに関する様々な人が何を目指し、何を思って、何をやっているのかということまでは知ることは出来ません。しかし、この全てを垣間見ることが出来るという点で、「鉄の骨」は公共工事に関連する人にはある意味、親しみやすい入門書であるとも言えます。

公共工事を発注する国や地方自治体は、発注先を原則とて「入札」で決めることになっています。受注を希望する各社が受注希望価格を札に書いて入れ、最も安い価格の会社が落札するしくみです。ただし、発注者側が決めた価格を超えていれば落札とはなりません。もちろん、この価格は国や地方自治体は秘密にすべきものですし、受注を希望する各社も情報交換することなく競争することが求められています。

安い価格で受注するには、自社はもちろん関連会社のコストを下げる必要がありますし、革新的な新技術を導入できれば大きく優位に立つことができます。これが正常な競争となります。一方、努力しない会社や不当に利益を上げようとする会社は、談合することによって受注価格を操作しようと、様々な不当な駆け引きを行おうとします。業界内で色々なことが起こっているわけですが、もちろん、それを取り締まろうとする当局も居ますので、関連者は膨大になります。

「鉄の骨」では、これらの多くのことが、現実で行われているであろう交渉や新技術導入も含めて小説として楽しく読めるように書かれています。公共工事に関連する人は勿論ですが、それ以外の人も楽しく読める一冊だと思います。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする