オリックス・バファローズ中嶋監督采配「中嶋マジック」

2021年と2022年の2年連続でパ・リーグを制し、2022年には日本一を達成した中嶋オリックス。2014年を最後にAクラスが一度も無く、更には2019年と2020年は共に最下位であったチームが、ここまでの変貌を遂げたのは、驚きです。特に、2022年は、補強した外国人選手が殆ど機能しないなど戦力強化が事実上失敗し、前年度の優勝の立役者である杉本外野手や紅林内野手が不調で何度もスタメン落ち、T-岡田外野手に至っては1軍での活躍が年間通して目立たない中での優勝でした。この状況での日本一は、やはり中嶋監督の手腕が大きいのではないのでしょうか。在阪球団でありながら事実上は不人気球団であってメディアで取り上げられることがほぼ無いオリックスですが、中嶋監督が2022年の正力松太郎賞を受賞したのはファンにとっては嬉しい話題です。

スタンドから観戦している一般のファンが見ることが出来る監督の采配といえば、選手起用と作戦指示です。今回は、中嶋監督の選手起用と作戦指示について、2021年に50試合ほどと2022年に60試合ほどスタンドから観戦して感じたことを書いていきたいと思います。

〇中嶋監督の選手起用
中嶋監督の選手起用の特徴で一番に感じるのは、「多くの選手を起用する」ということです。プロ野球の他の監督では実績や経験を優先する方も多いのですが、中嶋監督は、調子が良い選手、チームに勢いが出る選手などをよく起用するように思います。
調子が良い選手の起用という意味では、日本シリーズで話題になった宇田川投手は、シーズン後半で調子が上がってきてシリーズでピークに来た選手でしたが、シリーズでここぞの場面で投入しました。一方、抑えでシーズン前半に活躍した平野投手やシーズン後半で大活躍した阿部投手は、シリーズでは調子が良くなかったため投入回数が減り、かわりにワゲスパックを抑えに持ってきました。あと、野手で言うと、ベテランの西野内野手がシーズン後半から調子が良くなって起用が増え、ここぞという場面で大活躍してシーズン優勝に貢献しました。このように、実績や経験にこだわらずに成功確率が高い選手を冷静に起用しているように見えます。
また、チームに勢いが出る選手でいえば、宗内野手、大下内野手、太田内野手、などでしょうか。宗内野手はしっかりとレギュラーに定着してしまいましたが、連敗でチームの雰囲気が悪い時は大下内野手をベンチに入れたりしますし、今やシリーズ男となった太田選手を起用して先頭打者ホームランを打つなどしています。あと、たまにT-岡田外野手や杉本外野手を一番に起用したりするのも、そういうことではないでしょうか。
そして、結果的に功を奏しているのが、多くの選手を使うことにより、相手チームにとってデータ不足になるということと、自チーム選手の疲労が溜まりにくいという2つのメリットを生んでいると思います。今のプロ野球は、データ分析が高度になっていますので慣れてくるとすぐに攻略されますし、高度な戦いを続けるので疲労も蓄積していきます。この対応が上手に出来ているのが中嶋采配だと思います。
疲労という意味では、シーズン後半に調子の落ちた福田外野手をすぐにファームに落としたり、日本シリーズ第5選で山崎投手と宇田川投手をベンチから外したりするなど、長いシーズン・シリーズを見据えた疲労を積まない戦略になっています。

〇中嶋監督の作戦指示
中嶋監督の作戦も、選手起用と同様に冷静に確率が高い指示をしているように感じます。中嶋監督の奇襲の代表といえば、2021年に日本シリーズ進出を決めたクライマックスシリーズでの小田外野手の無死1、2塁からのサヨナラバスターです。セオリー通りに行けば送りバンドと誰もが思っており、私もスタンドで油断して危うく見過ごすところでした。ただ、このような奇襲は、本当の勝負所でたまに出る程度で、シーズンではあまり見ることがありません。基本的にはオーソドックスな攻めの野球のように思います。
また、このサヨナラバスターも、足の速い小田選手ですからダブルプレーの確率も低く、今から思えばリスクがそれほど高いものでは無いとも考えられます。結局、一般には奇襲と思われることも、確率や流れや色々なことを考えて総合的に判断されたもので、理にかなった作戦と言えるのかもしれません。

このように、中嶋監督の采配を見ていると、従来のプロ野球の采配ではなく、データや確率などを俯瞰して長期的に戦っていく采配のように思えます。言い方を変えると現代のプロ野球にマッチした采配と言えるのではないでしょうか。実績や経験に頼らず、長期的にチーム全体で効率よく戦う手法は、大崩れすることなく安定しているように思います。吉田正尚外野手が2023年にMLBに挑戦し、山本投手が2024年にMLBに挑戦すると囁かれ、大幅な戦力ダウンが予想される中、中嶋マジックがどこまで続くのか非常に興味があります。

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