読書感想:沈まぬ太陽(山崎豊子)③/4

前回の続きです。沈まぬ太陽は、アフリカ篇、御巣鷹山篇、会長室篇、の3部構成になっています。主人公は、国民航空に勤める恩地元です。物語そのものが、実在した日本航空の社員や日本航空の事故での取材などをもとに構成されているため、非現実的な内容ではなく、現実に十分起こりえること/現実に身近に起こっている内容となっています。

〇御巣鷹山篇
アフリカ篇での会社側による10年の海外僻地への左遷人事が終わり、日本に帰ってきた恩地元でしたが、更に10年間は東京本社での閑職人事が続きます。そんな中、国民航空のジャンボ機墜落事故が発生して多くの犠牲者が発生します。恩地元は、救援隊、遺族係を命じられ、最前線の現場で事故処理の手伝いや遺族への対応を真摯に遂行していきます。ここでは、無責任な態度をとる経営陣、悲しみと怒りに暮れる被害者、そして、現場で真摯な対応をとる恩地元のような最前線の社員と様々な人間模様が描かれます。
恩地元が救援隊、遺族係を命じられたのも、会社側の変わらぬ厳しい仕打ちというのもあるかもしれませんが、正義感が強い人物だからきっちりとやるだろうという考えも働いていると思います。会社というのは、必ずしも好き嫌いだけで動くのではなく、重大事には特に会社のためになるかどうかの判断は大きく働きます。そういった意味では、恩地元が会社からこの場合はきっちり働けると見られていたのでしょう。
いっぽう、会社における経営陣と現場との大きな差というのは、この作品で書かれている内容にかかわらず、現実世界ではほとんどの企業で発生していることでしょう。経営陣とは大きく物事を見るところであり、細かい現場を知ることは大切ですが、現場の立場だけで判断すると会社経営を間違えてしまいます。そういった意味では、現場の立場で全ての物事を現場視点で考えろというのは誤りでしょう。しかし、腐敗した会社、組織、経営に関する部署のスタッフというのは、現場のことを全くかえりみることなく自分の立場と保身だけを考えている者を頻繁に見かけます。このような経営をしていると間違いなく会社はたちゆかなくなります。
また、社内の経営と現場の関係だけではなく、御巣鷹山篇のように、お客さん・世間の気持ち・思い・考えというのはとても重要であり、これを軽んじていれば会社というのはいつか大きな過ちを犯してしまいます。本作品のシャンボ機墜落事故についても、その発生を食い止めるということを経営陣がこれまでどれだけ真摯に向き合ってきたか、その結果として起こったことを前線で受け止めたのか、そして、それの対応をきっちりしていこうとしているのか、ということの不十分さをきっちりと描いています。起こるべくして起こった問題、これは我々の周りにも小さいスケールでは沢山あります。

次回に続きます。

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