読書感想:沈まぬ太陽(山崎豊子)②/4

前回の続きです。沈まぬ太陽は、アフリカ篇、御巣鷹山篇、会長室篇、の3部構成になっています。主人公は、国民航空に勤める恩地元です。物語そのものが、実在した日本航空の社員や日本航空の事故での取材などをもとに構成されているため、非現実的な内容ではなく、現実に十分起こりえること/現実に身近に起こっている内容となっています。

〇アフリカ篇
恩地元は、日本で周囲に押し付けられる形で、国民航空の労働組合委員長となります。ところが、会社側にとっては不都合となることが多かったため、カラチ、テヘラン、ナイロビという僻地に8年間飛ばされ続けます。海外勤務が通常は2年というなかでの不当人事であり、その間に母親は亡くなり家族とも別れて暮らすことになります。一方、同僚の行天四郎は、当初は恩地元と活動をともにしていたものの、会社側に寝返る形となり、出世街道を歩むことになります。恩地元は、労働組合と手を切れば日本に帰すという会社側の言葉を拒否して思いを貫きます。
このような話は、スケールはさておき、実際の企業でもしばしば起こっています。恩地元のように、もともと人が良い人、正義感を持っている人、芯の強い人というのは、周囲に乗せられる形で人が嫌がる職務に就き、それでもそれを真面目に全うしようとするが故に、他の立場の人と結果的に対立する形になります。周囲に乗せられる形で就いた職務であっても、それが正しいことであったり苦労する仲間のためになることであるのならば、性格的には後には引くことができず、それが人生を決定づけることになります。仲間のためになること・正しいこと・信念を通すこと、これは綺麗ごとであり実際の社会でそれが必ずしも皆に認められて相応の評価がされるというものではないということです。。
一方、行天四郎のように、以前は正義感で動いていたものの、経営の立場に立って親友・友情よりも会社をとるということもよくあります。これは、恩地元のような人間ばかりでは会社は成立せず、そういった立場に人間も必要であることを感じたからでしょう。ストーリー的には、行天四郎は恩地元を裏切って会社側に寝返った人物として書かれていますが、実際はそれだけではないかもしれません。
アフリカ篇を読んで思うのは、恩地元への仕打ちが度を過ぎて酷いということはさておき、会社経営のためには行天四郎のような人物が必要であり、会社側の間違いを正していくには恩地元のような人物も必要であり、そのバランスで会社がうまく進んでいくということです。これは、次の御巣鷹山篇以降でわかってきます。

次回に続きます。

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