普段の定型業務を行っているときというのは、自部署と他部署、あるいは自社と他社の分担は明確であることが多く、特に調整する必要もなく仕事が進んでいきます。しかしながら、新たな問題が起こった時や新しい取り組みを起こすときは、部署間や会社間で調整しながら進めていかないとなりませんので、進めることがなかなか難しくなります。自部署で新しいことを進めようとしても、他部署にとって特にそれが必要でない場合は、「それをやる必要性を詳しく教えてくれ」「進めるならもっと具体的にしてくれ」「課長が納得しないので説明資料を作ってくれ」「いま忙しいから当面はできないよ」などと言われて、なかなか進みません。説明する相手も次々に変わり、たらい回しにされてしまいます。特に、問題が発生しそうな場合や既に発生している場合は、早急に進める必要があります。この場合は、どうしたら良いでしょうか?
実は、組織というのは新しいことを行うには苦手なしくみです。一度、組織が出来てしまうと、多くの人はその枠組みの中で暮らそうとし、自分の負荷がなるべく小さくなるように動いて行きます。そして、新しい仕事を一度受けてしまうと、それが前例となって負荷が増えるので、新しい仕事を受けるのを嫌うようになっています。しかし、会社を取り巻く環境は常に変化し、それに追従していかねば存続しませんから、変化・改革は常に必要です。そして、組織の中には、変化・改革を行うキーマンというのが、能力の大小はあれ1人は居ることが多いです。たまに全く居ない場合もありますが、そういう組織はすぐに潰れます。会社の中であっても、そういう組織は皆の足を引っ張るか何も役に立たないので潰されていくことになります。
さて、この変化・変革を行うキーパーソンですが、必ずしもその組織の一番上の者とは限りません。部長の場合もあれば、係長の場合もあれば、例えば、派遣社員の場合もあります。立場は何であれ、会社にとって何が大切かをわかっており、仕事を進める実務能力があり、上司や他部署の責任者を動かすことができる、そういったことが出来ればキーパーソンなのです。これは、慣れてくれば、他部署との会議や日常の会話で見抜くことができるようになってきます。特に、他社と仕事をする場合は、他社のキーパーソンを見つけることが出来なければ、協業というのは不可能と言っても過言ではないと思います。もし、他社からあてがわれた担当がキーパーソンでなければ、いかにキーパーソンをつけてもらうかを自社で先ずは議論したほうが良いかもしれません。
私が、むかし係長だったころ、有名企業と難しい仕事を一緒にする機会がありました。この仕事は、場合によっては訴訟問題などが起こるなどのリスクが高かったので、私の会社でこれを進んで担当する者が他になく、新しいもの好きの私が担当していました。そんなときに、たまたま、両社の専務と所長と部長と係長で打ち合わせをする場がありました。それ自体は儀式みたいな打ち合わせだったのですが、会議が終わって帰り際に、これまで会話したこともなかった相手の専務が私の前に歩み寄ってきまして、皆が居る前で深々と頭を下げられて、「何卒よろしくおねがいいたします」と言われたのです。私はその時に悟りました。仕事を成功させようと思えば、相手の一番偉い人にお願いするのではなく、キーパーソンにお願いするということなのだと。